演劇小道具工房

【演劇小道具工房/第17回】インパクトドライバーって持ってた方が良いの? そもそもどんな工具?

こんにちは、シンディこと大向しんじです。ここ『演劇小道具工房』ではお芝居で使える小道具のつくり方や、過去に作った小道具の紹介、そのほか小道具制作についての交々を解説します。

第17回となる今回は演劇の現場で何かと耳にするこの工具 「インパクトドライバー」についてです。

あった方がいいの? インパクト

『インパクト』なる工具をご存じでしょうか。インパクトとは正確には「インパクトドライバー」のこと。電動ドライバーの一種です。

この『インパクト』、実は演劇の現場で頻出する工具No.1(ぼく主観調べ)でもあります。演劇をやっている人は「耳にしたことがある」「使っているのを見たことがある」「借りて使ったことがある」「自分用の物を持っている」という方も多いのではないでしょうか。

このインパクトが特に活躍するのは主に「仕込み」「バラシ」の時。公演が始まる前に劇場に入って、その公演用に舞台を作ることを「仕込み」と言います。「バラシ」はその逆で撤収のために解体して劇場を元の状態に戻すことです。つまり舞台作りにおいてこのインパクトがよく使われるのです。

大道具を設営したり、足場を固定したり、平台や木材を組み合わせて袖の中に早替え用の小部屋を作ったり……。限られた時間で多くの仕事がある仕込みやバラしにおいて、強い力でスピーディーにネジ留めができるインパクトが大活躍するわけです。

舞台スタッフさんが慣れた様子で扱う姿はかっこいいし、劇団の先輩なんかは私物のインパクトを持っていて仕込みに持参していたりすると頼もしいんですよね!

さてそんな一方、僕の実体験でこんなことがありました。

それは僕が美術でお手伝いしてたとある舞台。ちょっと大きめのアイテムがあったので最後の組み立てだけは現地ですることにして、搬入日に私物の電動ドライバーを持っていきました。

出演者の一人がその作業を手伝ってくれていたのですが、作業中ポツリとこんなことを言ったのです。

「あ、そのインパクト私物ですか? やっぱり結構みんな自分で持ってるんですね。」

「こういう道具作りとかにも使えますもんね……」

「う~ん……演劇やるならやっぱインパクト持っておいた方がいいんですかね? 」

インパクト説明劇場

そう。僕はインパクトを持っていません。それどころか自分で使ったこともほぼ無いです。

「え!? さっき持ってたのは!? 」と思われるかもしれませんが、僕が持っているのは電動ドライバーの中でも平均的な機能のドリルドライバーと呼ばれるものなんです。

これまでの写真で出てきたこいつはインパクトではなくドリルドライバー。

インパクトドライバーとドリルドライバー

僕がインパクトを所持していない理由はひとつで「必要と感じる機会がなかったから」です。

インパクトが活躍するのは仕込みやバラシの中でも舞台エリアを担当する人たち。昔は「男子だから」「若手だから」と言うくくりでとりあえず舞台班に振られることもあったんですが、だんだん小道具や衣装に振られることの方が多くなっていったんです。(若さが無くなかったからじゃありません、適材適所です、たぶん)

さてここで先述の彼の発言、「道具作りとかにも使えますもんね……」に対して大きな声で言いたい事がひとつ。

インパクト、道具作りにはそれほど使わないです!

インパクトドライバーはパワーがあるぶん細かい作業には向きません。打撃が加わるのでブレも生じやすく、コントロールにも慣れが必要です。(もう皆さんご存じの通り、僕はインパクトを持っていないのでこの辺のコメントには全て“聞くところによると”がつきます)

また先ほど下穴が無い所にネジを打つこともできると言いましたが、素材によっては下穴なしでネジを打つと圧に耐えられずに割れてしまうこともあります。(これはインパクトじゃなくても同じです)なのでいろいろな素材を使う道具作りにおいて、インパクトの長所はそこまで活かせないんです。

道具作りで使えないわけではありませんが、基本的にあまり向かないと思います。むしろ道具作りやほか幅広い用途に対応できるのが、ドリルドライバー

打撃の機能が無く回転のみの機能でパワーこそインパクトドライバーに叶いませんが、素材の強度に合わせて回転速度や締め具合を調節できるので細かい作業に適しています。

また回転のみの機能であることのメリットとして、ビット(先端に取り付けるドライバーやドリルなどの部品)の種類が豊富

打撃が加わるインパクトのビットは基本的にドライバーレンチなど、強く固定する目的のものですが、ドリルドライバーはそれらに加えて穴をあけるドリルや、研磨するヤスリなどをセットすることも可能なんです。ビットをそろえればぐっと多機能になるので、道具作りでは様々な形で役立ってくれますよ。

「演劇やってるから」ではなく「必要と感じたら」

仕込みもバラシも、大抵は舞台班が一番大仕事なので、手が空いている人や体力のある若手はとりあえず舞台班に振り分けられる場合が多いです。継続的に参加する一員としてよく使う道具の入手を検討するのは自然な思考だと思います。

とはいえ、コロナ禍以降は密集を避けるため仕込みもエリアごとに人数を調整し、過剰になりすぎないよう人員を振り分けるところが増えている印象です。作品によっては大掛かりな設営のないケースも当然ありますし、何より使う場合でも、舞台スタッフさんが所持されている物で十分な場合もあります。

また機能の説明では触れませんでしたが、インパクトとドリルドライバーは価格帯でも差があります。ピンキリとはいえ、ドリルドライバーと比べてインパクトドライバーはそこそこいいお値段します。特に舞台で使うものは電源が有線ではなくバッテリータイプになるので、リーズナブルなお買い物とは言えないでしょう。

「仕込みでも使われてるの見るし、先輩が持ってるし、演劇やってるなら持ってた方が良いの?」という理由でなら、僕は「そんなことないんじゃないかな」と答えます。

ただし前述の通り、はっきりとした得意分野と特徴を持った便利な道具であることは間違いありません。パワー&打撃という機能や特徴を知ったうえで「自分用に持っておきたい!」「劇団備品として欲しい!」と思ったら検討の価値は十分にあると思います。

明確に「必要!」と感じてからでも遅くはありません。むしろきちんと機能を吟味することで、文字通り『強~い』味方になってくれるはずです!

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執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy

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