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【音楽レビュー/昭和アイドル歌謡編】岡田有希子 ファーストアルバム『シンデレラ』

“80年代、学園⻘春ものアイドル歌謡”の王道路線、かつ最高傑作の一つである本作は、岡田有希子のファーストアルバムとして1984年にリリース。

全体としては、良質な“竹内まりや節”に彩られたアルバムと言えるだろう。

実際は、全10曲中4曲のみが竹内まりやの作詞・作曲なのだが、シングルカットまで考慮すれば、この時期の岡田有希子の楽曲を“竹内まりや路線(期)”と表現して概ね問題はなかろう。

確かに竹内まりやの世界観(作詞)、メロディ(作曲)における“竹内まりや節”の存在は大きい、だが、本アルバムが良質なポップスに仕上がった要因として決して忘れてはならないのが萩田光雄、清水信之、大村雅朗といった編曲家の功績である。

これらの編曲家は、70年代中盤から80年代中盤にかけての、いわば“シンセサイザー台頭期”にアイドル系サウンドを牽引した人物たちで、本アルバムにおいても全くもって見事な手腕を見せている。

シンセサイザーの発展にみる、アイドル歌謡における編曲の歴史

萩田氏の手による、この時点ですでにちょっと古臭く?なっていた生楽器とフェンダーローズピアノ、70年代初期〜中期のモノフォニックシンセサイザー主流期によく見られた控えめなシンセサイザーの使用法を踏襲したような比較的保守的な編曲は、ある種の“お涙頂戴”、アイドル楽曲的表現を借りるならば“切なさ”の表象としては“直球ど真ん中ストレート”であり、70年代アイドル文化の残像として見事に機能していたように思う。7 曲目「憧れ」や岡田有希子のデビュー曲でもある10曲目「ファーストデイト」はその好例。

この“古臭く”という表現に関しては、必ずしもディスっているというわけではない。これは80年代半ば的価値観においての“古臭さ”であり、実際こうした編曲はある程度の技術がなければできないもので、ちょっと大袈裟に例えるなら「オーケストラのスコアを書く感じ」とでも言ったら分かりやすいだろうか? “あらかじめ頭の中で音を組み立てて楽譜に書く”といった古典的な編曲術(※1) といえる。昨今の打ち込みありきで存在する音楽家にはとても出来そうもない芸当である。


※1 ちなみに、そうした好例というか分かりやすい例としては、やはり 1984 年にリリースされた女優の渡辺典子が歌った「晴れときどき殺人(キル・ミー)」があげられる。これはいわゆる“角川三姉妹”の渡辺典子主演による映画の主題歌だったわけだが、ここでは、分散和音線を基礎とした比較的単純なスコアといった感は若干否めないものの、ブラスやストリングスをふんだんに用いたド派手なオーケストレーション・・・ポップスとしては些か大風呂敷を広げたような気がしないでもないが・・・を聴くことができる。もちろん、萩田氏の編曲。個人的には結構好きだったりします。

また、萩野氏はそうした70年代アイドルポップス系サウンドを生み出してきた 立役者のお一人でもあるわけだから、YMOサウンドを経てYAMAHA DX7(デジタルシンセサイザー)やシモンズのデジタルドラムの音があちらこちらで聴こえ始めた80年代半ば的流行サウンドからすれば些か“古臭さ”を感じたというだけのことであり、見方を変えれば70年代アイドルにおけるある種の金字塔サウンド、まあ、そうしたスタイルこそが萩田サウンドということにもなるのかも知れない。

自分で書いておいてなんですが、まあ、この辺りの“古い・新しい”に関しては、クラシックやジャズとは異なり、どうしても“流行り・廃り”で語られがちな傾向にあるポップスならではの宿命といった感が無きにしも非ず・・・

すなわち“芸術”ではなく“商品”としての音楽、そうした側面からの話である点をお断りしておきたい・・・ファッションなんかも同様ですね?

ここでは“編曲”の変遷ないしは流行の傾向について論ずるにあたり、そうした時代区分を明確にするために、あえて“古い・新しい”といった軸を採用しただけのことで、そもそも“古い・新しい”といった基準自体が相対的なものである以上、 “当時の価値観からすれば”といった前提の上に成り立つ、いわば“俎板の上にのせるため”に用いられた便宜上の表現に過ぎないのだ。

まあ、2023年現在の若者から見れば、80歳が70歳に向かって「まだ若いのに・・・」と言っているようなもので、どちらも“古い”のである・・・たぶん。

ちなみに、8曲目「Plastic Girl」の編曲は、時代に則した思いっきり“打ち込み系”サウンド、厳密には“シンセサイザー系”サウンドが採用されている。リズムもドラムマシンを使用したものかと思われるが・・・やはり萩田氏の本質は上記の意味での“古臭さ”にあると思うのは私だけだろうか?

個人的な趣味から一つ批判させていただくのならば、エレピ(エレクトリックピ アノ=電気ピアノ。フェンダーローズやウーリッツァーetc.)の中音域における 中年太り的傾向についてははあまり関心できない。ちょっと乱暴だ! そのあたりに関しては、清水、大村世代のエレピ手法、そのスマートな中音域に軍配が上がる。

とは言え、さらに個人的な好みで言わせていただけば、この後、80年代後半のデジデジ(デジタルデジタル)したダンス系?アイドルポップスに比べれば遥かに好ましく思っていたりもします・・・念のため。

清水信之氏の編曲に関しては、大抵どの曲(岡田有希子以外も含む話)を聴いても「素晴らしい!」の一言。すごい才能だと思う。氏のProphet-5(シーケンシャルサーキット製アナログシンセサイザー)の使い方は坂本龍一氏のそれと双璧をなすものと思われる。フレーズと音色の必然的な結びつきは文句のつけようがないほど見事。編曲自体にも一切無駄がない。

もちろん、清水氏の編曲においても萩田氏同様、ストリングスの生演奏やローズピアノの使用は確認されるが、より80年代的なスタイリッシュなものとなっており、ドラムスやドラムマシンのエフェクト処理(EQ、リバーブ等)に関してはその後のサンプリング系リズムマシンの台頭を先取りした感すらある。1曲目「さよなら・夏休み」でのスネアのリバーブ処理や、3曲目「彼はハリケーン」での低めに響かせたスネアにクラップ系音色で高音をプラスした処理、6 曲目「風の中のカフェテラス」での村上“ポンタ”秀一氏が叩くドラムスのエフェクト処理などが分かりやすい例だろう。

個人的には5曲目「潮風のラブレター」の“初期打ち込み感”(たぶん、RolandのMC-4あたりを使用かな?)がなんとも言えなく美味。

ここで、清水信之氏と萩田光雄氏を少しばかり比較してみたい。

まず、和声の“響き”に関しては清水氏のヨーロピアンな感じが萩田氏のそれに比べて少しばかり垢抜けているように感じられる。萩田氏の和声、すなわちコード進行が必ずしも単純という訳でもないのだが・・・「シンセサイザーの音色を含めてのそうした“響き”を活かす術という点で清水氏が上回っている」といった方がより正確な表現かもしれない。この辺りの“術”ないしは“技”に関しては、やはり清水氏の手によるピエール・バルー、大貫妙子らの作品においても既に実証済みである。

また、萩田氏の編曲がホモフォニー的であるのに対し、清水氏のそれはポリフォニー的である。この辺りは両者のシンセベースの扱いにおいて顕著だ。萩田氏の編曲による8曲目「Plastic Girl」と清水氏の編曲による5曲目「潮風のラブレター」を聴き比べれば一目(一聴?)瞭然。

ちなみに、数年後にリリースされた渡辺満里奈の「虹の少年」を初めて耳にした際、イントロ&サビでの“シーケンスのフレーズ&音色も含めて「これは清水信之?」と瞬時に思い浮かんだほど特徴的なベースライン(ここでは「潮風のラブレター」ほど攻めたものにはなっていないが)。「潮風のラブレター」と「虹の少年」を聴き比べてみればその特徴が理解されるのではなかろうか。

もちろん、このホモフォニー的か?ポリフォニー的か?に関しては、シンセベースに限った話ではなく、楽曲全体についての話である。

萩田、清水両氏が“志向するサウンド”の違いといった観点からは、ドラムの音色やそのエフェクト処理において、本アルバムでの両氏の仕事を比較してみるのも一興かと。

“1984年”時点の話として、清水氏と萩田氏を“新・旧”と捉えることもできるし、“新進気鋭”と“大御所”と捉えることもできる。

いずれにしろ、こうしたタイプの異なる才能によるコラボレーション(直接的なものでこそないが、アルバム全体で両者が果たす役割といった意味において)が あったからこそ岡田有希子、ないしはアイドル歌謡の世界観をこうして見事に描ききれたのではないかと思っている次第であります。

さて、ここで大村雅朗氏についても少し触れておきたい。

当アルバムでの大村氏の編曲は2曲目、セカンドシングル「リトルプリンセス」のみだが、“控えめ”なのに妙に存在感のあるサウンドとなっている。

大村氏の編曲はもはや伝説?と化しているが、早くにして亡くなってしまったのがまことに惜しまれる。

大村氏の仕事は松田聖子の一連の編曲で特に有名だが、やはり Prophet-5の使い方が見事。この時期の編曲作品を前提にお話しすれば、曲にもよるものの、シンセサイザーの使用法に関しては、清水氏とは異なり若干控えめな印象だ。個人的には萩田氏の系譜の編曲家といった位置付け。イメージ的には70年代の萩田、80年代の大村といった印象。

こうして“シンセサイザー”というキーワードから編曲家の個性(ないしは技術) について語っているのにはそれなりの理由がある。

一つには、アイドル歌手全盛期における“編曲”は、そのタレントイメージを演出する上での重要なファクターであり、そうした“アイドル歌謡”の性質上、そのオーケストレーションにおいて “音色を作り出す機能”を有するところのシンセサイザーはそもそも親和性が高かった。そこへ来てアナログからデジタル方式への移行も含め、シンセサイザーに新たな機能が加速的に追加されていったこの時期、その拡張された可能性を取り入れる形での編曲が行われていたことによる。

そして、現在では編曲、さらには音楽制作の主流とまでなるに至った“打ち込み” の歴史は、“シンセサイザーの発展”にともなう歴史そのものでもあるからだ。

70年代初期→モノフォニックシンセサイザー(和音が出ない)の登場。
70年代後半→ポリフォニックシンセサイザー (和音が出る)の登場。
80年代前半→シンセサイザーの自動演奏(打ち込み)が比較的簡単に出来るようになる。デジタル方式のシンセサイザー登場(※2)。

※2 83年5月、YAMAHA DX7発売。これを機に84年前後からアイドル歌謡にデジタルシンセサイザーが積極的に用いられるようになるものの、それから2〜3年間はProphet-5とDX7といったようなアナログ+デジタル併存が主流だったように思われる。やはり80年代を代表するアイドル歌手⻫藤由貴の編曲やコンサートでキーボードを担当していた武部聡志氏がそうであったし、岡田有希子のバックバンドではProphet-5とP P G WAVE2.2ないしは 2.3(2.2か? 2.3か?そのどちらを使用していたかまでは分からないが、いずれにしろ200万円前後で販売されていた。当時としては最新型のデジタル方式を採用したシンセサイザー)を使用していた。Prophet-5も当時170 万円だったことを考えると2台で約400万円!

80年代後半→デジタル方式のシンセサイザーやドラムマシンの普及(※3)により、打ち込み主体の音楽が主流となる。

※3 YAMAHAはDX7、KORGはM1、RolandはD-50(3社とも日本のメーカー)といった具合に各社からこぞって 20 万円代のデジタルシンセサイザーが立て続けに発売される。低価格にも関わらず、それまで数百万円したアナログシンセサイザーに全く引けを取らない音色、機能面でのクオリティに加え小型化にも成功。それらが全世界の主流となるのにそれほど時間は要さなかった。この頃から “シンセサイザーは日本製”といった風潮が全世界的規模で拡まることになる。

まあ、この後も続いていくわけだが、キリがないので“打ち込みの歴史”に関してはまあこのぐらいで。

本アルバム『シンデレラ』がリリースされた1984年は、上記、170年代中盤依然と270年代後半〜80年代前半、80年代後半以降といった比較的はっきりとしたサウンドの傾向を持つ時代区分の真ん中終盤、すなわちアイドルポップスの主流が“人間の手による演奏”から“機械による自動演奏(打ち込み)”へと移行する時代にあたる。

この岡田有希子のファーストアルバム『シンデレラ』は、そのまさに“移行期の作品”として、そうした時代的特徴をもっとも顕著に備えた“良質なアイドルポップス”の一つの完成形として語られるべき意味のある作品のように思われてならない。

豪華な作家陣の顔ぶれから読み解くべきもの

竹内まりやについては先に触れたが、他の作家陣にも触れておきたい。

岡田有希子『シンデレラ』

1.さよなら・夏休み
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:清水信之

2.リトル プリンセス
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:大村雅朗

3.彼はハリケーン
作詞:EPO 作曲・編曲:清水信之

4.丘の上のハイスクール
作詞:康珍化 作曲・編曲:萩田光雄

5.潮風のラブ・レター
作詞:康珍化 作曲:白井良明 編曲:清水信之

6.風の中のカフェテラス
作詞:三浦徳子 作曲:岡田徹 編曲:清水信之

7.憧れ
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:萩田光雄

8.Plastic Girl
作詞・作曲:山口美央子 編曲:萩田光雄

9.ソネット
作詞:吉沢久美子 作曲:梅垣達志 編曲:萩田光雄

10.ファースト・デイト
作詞・作曲:竹内まりや 編曲:萩田光雄

作曲にはシンガーソングライターのEPO、山口美央子、ムーンライダーズの岡田徹と白井良明といったいわゆる流行作家というよりは“ミュージシャン”系の名前がクレジットされており、参加ミュージシャンも林立夫、村上“ポンタ”秀一、ペッカー、松原正樹、芳野藤丸、大谷和夫といったなかなかのメンツが顔をそろえる。さらに竹内まりやとEPOもコーラス隊として参加という贅沢な布陣。

これだけ見れば、ほぼニューミュージック、今風に言えばシティポップといった趣のアルバムが予想される。

ところがどっこい、作詞にはそれとは真逆なタイプ?の康珍化や三浦徳子といったこの時代のアイドル歌謡御用達作詞家の名前がクレジットされているというこのバランス感覚(笑)

では一体、こうした“バランス感覚”は何処から来ているものなのだろう?

“編曲”をキーワードに考察してみると、一つには萩田光雄氏による比較的保守的 (80 年代視点で)、かつ70 年代からのアイドル王道路線の継承、もう一方では清水信之氏による打ち込みサウンド主体の未来志向(80年代視点で)の融合と見ることもできる。

この時代の大人の空気感で言えば、正直、「アイドルソングは程度の低いもの」 といったイメージが無きにしも。実際、レコード会社や担当者によってはそうしたベーシックな認識が仕事に如実に現れているようなケースもあったかと思うが、一方で“良い仕事”を粛粛かつ着実に紡いでいる人たちもいたということだろう。

“学園⻘春もの”的作詞に表象されるようなコンセプト、ないしはそのイメージ戦略こそ“アイドル”ではあるものの、肝心のサウンドに関しては決して疎かにしないという姿勢が作家陣の人選、配分からも伝わる仕事である。

改めて“プロの仕事”について考えさせられるアルバムだ。

本作がリリースされた1984年は、少なくとも“アイドル”にまだ夢のあった時代だったし、何よりも“音楽”にまだ夢があった時代だった・・・

岡田有希子 ファーストアルバム『シンデレラ』

大人の皆さんには“人生と文化”について今一度振り返るきっかけとして、そして 若い人たちには、そうした時代の“ある種の証言”として是非、耳を傾けてみていただきたい“故きを温ねて新きを知る”作品なのです。

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執筆・撮影:関口純
(c)Rrose Sélavy

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