ものづくりの教科書 衣装

【衣装の創り方/第5回】衣装も複数の役を経験?・続ベースドレス編

【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。

記事を執筆するのは、アリスママ役を演じたシンディこと大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?

第5回は「続・ベースドレス編」をお届けします。

第4回をCHECK

【衣装の創り方/第4回】What is レディメイド? 既製品を活用したものづくり・ベースドレス編

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反省 ~手持ち無沙汰のコルセット~

さて、ここまででドレスのベースができあがりました……と、いきたいところですが。

前回ごく当たり前のように登場していた「手持ちのコルセット」というアイテム。記事を書いてしばらく経ってから、ふと「もしかして平均的成人男性のクローゼットにコルセットの取り揃えってあんまりない……? 」と思い至りました。

今さらです。あまりにも今さらです。なんなら第2回の「手持ちのワンピース」の時に思い至るべきです。その時『普通』の概念の闇に堕ちて悩んだくせに次の回には割とあっさり立ち直っている自分には「お前、もうちょっと深く受け止めとけ? 」と真顔で言ってやりたくなりますね。

第2回をCHECK

【衣装の創り方/第2回】脱・日常のちょっとしたパーティー…普通って何?衣装の打ち合わせ<その2>

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このままではこのページを参考にしようとご覧になっている5000万人の成人男性(よそう)が「やべぇ、俺んちコルセット無ぇよ……」と途方に暮れて手持無沙汰になってしまう……?

なーんて悔やんでても仕方がないので! (割とあっさり立ち直っている) 今回は先へ進む前にちょっとその辺りの詳細を掘り下げさせて頂きます!

とはいえ単なる補足とあなどるなかれ。前回あっさりと済ませてしまったコルセットとスカート部分には、実は共通点もあるのです。

誂品 ~マカロンちゃんのコルセティエ~

まずは問題の「手持ちのコルセット」について。

僕は私服用・衣装用あわせてコルセットを複数着持っていたので、第3回でデザインを絵に起こした時すでに「その中のどれかが使えそう」という目算がありました。

そして「手持ちのコルセットオーディション」を勝ち抜いて、見事衣装に選ばれたのが前回の写真でも映っていたこちらのコルセットというわけです。

実はこれ、過去に衣装で使用した品なのです。

使用したのは『マカロンちゃんの憂鬱』という作品のプロデュース公演で、ヒロインであるマカロンちゃんを演じたとき。マカロンちゃんはお菓子の国のプリンセスなのです。(なおオリジナルキャストは『ルーシー・フラワーズ』ルー役でもある五條なつきさんです)

楽劇座ファンにはおなじみの人気作品『マカロンちゃんの憂鬱』。この時は男性キャストのみで上演された非常にレアな回でした。

さらにこのコルセット、実は全て手作りなんです。

前回「ベースドレスはレディメイド(既製品)を活用」みたいに言いましたが、コルセットだけに限って言えばオーダーメイド(お誂え品)なわけです。

体の線を綺麗に見せるため、ボーン(コルセットに入れる芯のこと)は8本入り。さらにフロント部分はシャーリング(ゴムが平行に縫い付けられてい伸び縮みする構造)になっていて、編み上げリボンもゴム織のものを選んだので、正面パーツの一部だけ自在に伸縮します。

つまり「体の線を綺麗に形作るのに、腹式呼吸を一切ジャマしない」というコダワリの仕様に仕上がっています。

前回レディメイドとオーダーメイドのメリットデメリットでも触れましたが、専用で作るとデザイン面だけでなく機能面でも理想に近い物ができるというのはやっぱり大きなポイントですね。

引裾 ~同じ品でも役が変われば~

続いてコルセットの下、スカート部分も見てみましょう。

前回「ちょうどこれに合う水色のフレアスカートを持っているのでそれを合わせる」と、めちゃくちゃアッサリ済ませてしまっていたのですが、具体的にはアリスママのスカート部分はこのようになっています。

ミニ丈の水色のティアードスカートの上に、同じく水色のカーテンみたいなオーバースカートが重なっています。ミニスカートだけだとちょっと寂しかったので、「手持ちの」オーバースカートを足したのです。

……さて、観察眼のある方は「あれ?」とお気づきになられたと思います。 実はこのオーバースカートも、先ほどのマカロンちゃんの衣装で一度使われたものなのです!

ちなみにこちらも手作り。フロントになみなみのドレープ(ひだ)が作れるのがお気に入りです。オーバースカートとしてだけでなく、肩口につけてショートマントみたいに使ってもちょっと面白い動きを産んでくれる形なんですよ。

日常生活でも「動きが出る服が欲しい! 」という時にはぜひ作ってみて下さい!

ちなみにマカロンちゃんは中のスカートがロング丈でしたが、アリスママはミニ丈で背面はオーバースカートの方が中の丈より長くなります。マカロンちゃんの時とは変わってまるで引きずらないトレーン(ドレスで長く引きずる裾部分)のような印象になってお気に入りです。

歴史 ~名衣装は様々な役を演じる~

さて、冒頭で触れたコルセットとスカートの共通点、おわかり頂けたでしょうか? 前回が『レディメイド改造編』だとしたら、今回は『小物オーダーメイド編』であり『衣装の再利用編』となりました。

今回たまたま2つともマカロンちゃんからでしたが、それ以外でも「一度使った衣装やアクセサリーが別の機会でも活躍する」というケースは沢山あります。

以前共演したある女優さんは「衣装にしか使えない服やアクセサリーがどんどん増えて困ってるのだけど、このタイプの役はきっとまたやるからバリエーションとしてストックしておく」と仰っていました。

もちろん俳優はあらゆる役を想定して精進すると思いますが、同時に「自分はどんな印象を与える役者か」「どんな役にキャスティングされることが多いか」という意識も持つことになります。そしてそれは役者さんひとりひとりで異なります。

実際僕も服の整理をしていて「またアリスとか白雪姫みたいなのやることがあったらこれ使えるかも」と考えることはありますが、恐らく同年代の男性俳優でアリスや白雪姫の衣装を想定して服を断捨離する人は少数派でしょう。(もしご覧になってる方の中にそんな方いたら、お友達になりませんか……? なりましょう……? なって下さい )

過去の衣装を選んで残すのも、そしてその服に新しい「役」を与えられるのも、それまでの歴史があればこそというわけです。そう考えると、様々な「役」を経験している衣装には名優として拍手を送りたくなってきますね。

なにはともあれ、アリスママのベースドレスはこれにてできあがり。形が見えてきた所でお次は装飾品を考えてみましょう。次回もどうぞご期待ください!

第6回をCHECK

【衣装の創り方/第6回】舞台衣装でアクセサリーどう使う?・装飾小物編

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執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy

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