ものづくりの教科書 衣装

【衣装の創り方/第1回】役のイメージ、どうする?衣装の打ち合わせ<その1>

【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。

記事を執筆するのは、アリスママ役を演じた大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?

第1回は「衣装の打ち合わせ<その1>」をお届けします。

ごあいさつ

みなさんこんにちは! シンディこと大向しんじと申します。

これからお話するのは楽劇座公演『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』で僕が演じるキャラクター「アリスママ」の衣装がどのようにして創られたのか。

試行錯誤の打合せや実際の作業工程など、完成に至るまでをお話していきます。技術的な事を知りたい方には物足りない内容かもしれませんが、

・お芝居の衣装はどんな風にできるのかひとつの例を知りたい人。
・舞台やライブなどで衣装を作る・作りたい人。
・演劇や映像作品の衣装に興味がある人。
・工作や縫いものが好きな人。

なんて方には楽しんで頂けるんじゃないかなと思います。あわよくばあなたの創作のヒントや励みになったらとても嬉しいです。どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。

序章 ~衣装どうしよう〜

時は2021年。新型コロナウイルス感染症による影響はいまだ様々な業界に及び、それはもちろん演劇界にも……。新宿を拠点に毎月公演を行っていた楽劇座も、2020年4月に予定されていた新作の公演をやむなく中止する決断を採りました。

10年続いた毎月公演が突然無くなってしまったわけですが、楽劇座はこれをただの空白ではなく新たな試みの機会と捉え、その新作をオンライン公演として再構築することを決定したのです。

……と、そこまでは良いのですが。

脚本も完成し、リモートでの顔合わせやお稽古の体制も整ってきたころ、僕にはひとつの課題が産まれていました。それは……。

「衣装どうしよう」

そう、脚本がオンライン用に加筆修正されるにあたり、僕の役だけ当初の予定とは別の存在になってしまったのです!

打合 ~演出家さんに相談しよう〜

元々の脚本で僕の役は配達屋の「ケンちゃん」という役。以前登場したことがあるキャラクターだったため、衣装もすでに準備済みでした。

参考【キャラクター解説】お腹が空いたら私に“おかま”せ♡いつでもポジティブ!ハッピー全開♪ケンちゃん編

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それが新しい脚本ではケンちゃんが長年の夢だったバーを開業し「アリスママ」という姿になったのです。ちょっとしたパラレルワールドですね。気分はバタフライ・エフェクトです。

それにしても、ケンちゃんがバーのママになったらどんな衣装を着るのか。バーのママさんを画像検索したりもしましたが、ジャンルの幅が広い。大切なのは脚本・演出の関口純さんが一体どんなイメージを想定されているのか。

そこで僕はまず何は無くとも演出家さんに相談することにしました。お稽古の前後に打ち合わせとしてお時間を取って貰い、自分なりに確認したいポイントを整理して臨みました。未知の物を探る作業なので、内心はドキドキです。

「映えとインパクトが大事だからね、シンディくん。もっと肌を出していこうか」とか言われちゃったらどうしよう。うーん、困ります……。(純さんはそんなこと言わない)

しかし僕がそんな不安と妄想を抱えていることなど露ほども知らない純さんは、あっさりと仰いました。

現実のバーのママさんを意識する必要はあんまりないかな。ルーシーの世界だから。リアルなママさんのイメージよりも、どちらかというと持ってほしいのは作中の"店"のイメージだね」

・店の名前はケンちゃん命名の『アリスの青い小部屋』である。
・こぢんまりとした、鰻の寝床のようなカウンターバー。
・小さい店内だけどケンちゃんの乙女チックな趣味が表れた内装。

なるほど……この時点ではまだなんとなくですが、イメージはすぐに湧きました。

「シンディが……いやケンちゃんか、どっちでもいいよ、僕はあんまりそこ変わらないと思うし」

えっ。(少しショック )

「とにかくケンちゃんが自分の店を持った。小さいけれど皆をおもてなしするための自分の世界だ。そこで自分はどんな姿でいたいか、だね」

打合せを追えて、イメージが深まりました。……でもこれ衣装の打ち合わせというより、普通に役作りの相談ですね。

役作 〜その役として考えよう!〜

実はもともと楽劇座では「衣装のイメージを持つのも演技の一環」という創り方でした。

僕がはじめて純さんの演出を受けたのは楽劇座本公演ではない別の公演なのですが、その時サポートで就いて下さっていた楽劇座女優の五條なつきさんがこんなふうに仰っていたのを覚えています。

「楽劇座では衣装を考えることも演技の一環って考えなんですよ。"その人物がどんな服を着るのか? "とか、"お客様の目にはどう映るか? "とか。それらって演技にも関係するじゃないですか。まずは自分でイメージを掘り下げてみるんです」

確かに、そう考えると台本を読むのと同じです。実際その時の舞台も、まずはキャスト全員が自分で考えるところからスタートし、その後お互いのイメージを共有しながら、演出家がバランスを見つつ固めていきました。

主観と客観 ~アリスの青い小部屋~

大切になるのはなつきさんの仰っていた

・その人物がどんな服を着るのか → 主観
・お客様の目にはどう映るか → 客観

の視点です。

僕はまず主観の部分を掘り下げるため、お店のイメージを具体的に考えてみました。

カウンターのテーブルはマホガニーとかアンティーク系の木がいいな。アリスらしい要素をちりばめて…… あ、目立つところにバラの花を飾りたい!

『青い小部屋』っていうくらいだし、壁紙や照明はブルー系かな。色のついた照明でちょっとアヤシイムードのある感じ。……あ! あとはシャンデリア! 小さくてもいいからシャンデリアが欲しい! アリスはあまり関係ないけど自分なら店内の照明は絶対シャンデリアにする!

当時のメモ。公演をご覧になる方はぜひ本番のアリスママのバーがどうなっているかもご期待下さい。

……と、それらを考えた所で、手持ちのお洋服の中にそのイメージに馴染む物があることを思い出したのです。

次回に続きます!

第2回はこちら【衣装の創り方/第2回】脱・日常のちょっとしたパーティー…普通って何?衣装の打ち合わせ<その2>

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執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy