ものづくりの教科書 衣装

【衣装の創り方/第8回】欲しい色が無いなら? 使えない色って? ・デコレーション後編<完結編>

【ものづくりの教科書】<衣装の創り方>では、楽劇座(がくげきざ)のテクノPOPミュージカル『ルーシー・フラワーズは風に乗り、まだ見ぬ世界の扉を開けた』(以下、ルーシー・フラワーズ)の創作過程を通して、衣装がどのようにして創られているのかの裏側をご紹介していきます。

記事を執筆するのは、アリスママ役を演じたシンディこと大向しんじ。華やかな衣装が出来上がるまで、いったいどんな過程があったのでしょうか?

第8回は「デコレーション後編」をお届けします。

第7回をCHECK

【衣装の創り方/第7回】飾りをつける前にXXXを考える!・デコレーション前編

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調達 ~意外とどうにでもなったよ~

紆余曲折あったアリスママの衣装制作も出来上がりまであと一息! バラの装飾の取り付け方法も決まったので、あとは完成に向かってグルーガン片手にまっしぐらです。(危険なのでグルーガンを持って走り回ってはいけません)

前回の「1番困ったことはなんでしょうクイズ」(そんな言い方してない)で「たくさんのお花の入手方法」「配色バランス」も例に挙がっていたのですが、実はそちらはそれほど難航しませんでした。

実際に多くのお花が必要になりましたが、最近は100円ショップなどでもお手頃で造りの良い造花が手に入りやすいですからね。特に中くらいサイズのお花が5、6輪ほど房になっているタイプは素材として有能過ぎました。ありがとう、ありがとう……。

あとこれはたまたまですが、別の制作に使用した造花素材のあまりがちょっとづつ何種類かあったのでこちらも大放出! 過去に掘られた貝塚は何にも残ってないものですが、昔取った杵柄からは無限に宝物が出てきますねぇ……。

そんな感じで、お花の調達はそんなに困りませんでした。

着色 ~無い色は塗るよ~

調達に関連して、強いて困ったことがあったとすれば、色です。

「どこに何色をどのくらい配置する」というのは実際に衣装や体と合わせつつ、プランを立てて進めていたのですが、「どうしてもこの色が欲しいのに探してもなかなか流通してない!」という事態に陥ったのです。

フフフ……けれど皆様ご心配には及びません! こんな時にどうすればいいか、我々はすでに知っているはず。「こういうのが理想」 → 「ない」 → 「作る事にしました!」はこの連載の王道展開です。(そもそもこの連載の根幹自体が……)

こんなこともあろうかと、白いバラは余分に準備していました。理想の色のバラが無いなら、白いバラを染めて使用しましょう!

完成したドレスのお花を見て、既成色に混じった着色のバラがどれかわかるでしょうか?

正解はこちらの青いバラ。

ちょうど欲しかった青色に塗ることができました! さすがは青バラ! 花言葉が「不可能」だったのは今や過去の話です! (バラは青い色素を持たないので概念としての青バラは「不可能」という花言葉でしたが、2002年に初めて青バラ品種が生み出されたことで花言葉も「夢叶う」に変更されました。本筋に全く関係ない本日のいい話コーナーです)

立てかけて乾燥中のバラたち。実はオレンジも作っていましたが結局使いませんでした。

ちなみに着色に使ったのはアクリル絵の具です。

素材的には布なので最初は布の染料を考えたのですが、布用の染料はお湯にかけて加熱が必要になるものが多く、成型が出来上がっている造花を染めるのはちょっと心配だったので絵の具を筆で塗るスタイルにしました。アクリル絵の具は布にも問題なく使えますし、発色もよく、乾けば耐水性もあるのでとても役立ってくれました。

配色 ~背後(バック)に気をつけろ~

そうそう、色に関していえばオンライン公演ならではのポイントがもうひとつ。

アリスママの衣装は「これでもか!」というほど沢山の色を使っています。(昔見たドラマのセリフで「1回のコーディネートで3色以上使うと友達を無くす」という物がありましたが、その理論で行くとアリスママは一体……? )が、実はただ1色「緑」は使っていないのです。というより使えなかったという方が正しいのですが。

理由は単純で、グリーンバックを使う収録だったので、緑を避ける必要があったのですね。

実際にはただ単に「緑の色はNG」というより「カメラが捉えた時にグリーンバックの色と近くなる色がNG」なんですよね。なので実はベースドレスの水色部分も影になる部分は少し近い色になるため、時々手持ちのカメラなどで映してチェックしていました。幸い照明の意識や、機材側の色調設定で対応可能な範囲だったので良かったです。

カメラ越しにチェックしていて気付いたのですが、人の体って部位ごとの光の当り方によって意外といろんな色が発生するんですよね。ただ確かに「鮮やかな緑」は衣服や照明であえて入れない限り発生しにくい気がしました。だからグリーンなのかな、とちょっと納得です。

完成 ~咲き乱れたよ~

何はともあれ……。バラを取り付け終えたら……。

アリスママの衣装、できあがりです! 紆余曲折ありましたが、無事に完成いたしました!

衣装づくりは本来舞台上でお見せすることはない水面下の部分、いわば白鳥の脚の水蹴り。僕のスワンキックはお楽しみ頂けたでしょうか? 「アリスママの美麗なイメージ」が壊されていないことを祈りつつ……。

このようにして出来上がった衣装が実際の作品内ではどのように見えるのか、ぜひオンライン公演本編もお楽しみください!

さいごのごあいさつ

さて、最後に。

これまでの内容をバッサリぶった切るようですが、僕は必ずしも衣装や道具を作る必要は無いと思っています。「あんたここまでの8回は何だったのさ」って感じですね。あくまで「必ずしも」「必要」ではないってことです。

まだまだ学ぶことの多い身ながら、これまで複数のチームや劇団でキャストとしてもスタッフとしても経験の機会に恵まれ、作品づくりの場において「時間や予算やスキルなど、環境の条件って本っ当にいろいろあるんだなぁ」ということは心底思います。

理想のアイテムが無い時の最適解が「作る」以外の場合だって当然あります。仮に理想イメージ通りの物が、完成品の状態で、しかも容易に入手できるなら、それは素晴らしいことです。てかそれはもう運命の女神様が「それで行っとけ」ってGoGoダンス踊ってます。

それでも個々の状況によって「こういう美術を使った演出がしたいんだけど、用意できないから無理かな……」「いい脚本を見つけたんだけど、凝った衣装が必要そうだから無理かな……」という風に、衣装や美術がネックとなって不採用になってしまうアイディアもあります

それがすごく独創的な演出だったり、メンバーの魅力が生きる脚本だったりしたら……ちょっともったいないですよね。

また別のケースですが、僕がキャストとして参加していたある作品で演出家さんが「こういう小道具を使った演出がしたいんだけど、作ることってできると思う? 」と相談して下さったことがあります。その時はアイディアを話して制作を担当させてもらい、その演出が実現できました。

その演出家さんは僕が道具づくりをする事を知っていたので相談して下さったのだと思うのですが、「作る」という選択肢があることで、面白いプランや理想のイメージを「無理かな……」にしなくて済んだのです。

「出来ること」「感じられること」が増えていくほど「面白さ」も増えていくのは、衣装作りでもお絵かきでもお芝居でも同じだと思いますし、それは重ねていくことで確実に増えていきます。

もしもこれまでお裁縫や工作が身近な存在じゃなかったとしても、ふとした時に「作ってみようかな」と思えたら、それは面白いことが何倍にも膨らむチャンスかもしれません。だからぜひ、チャレンジしてみて下さいね。

大事なのは、まず頭の中の行動コマンド選択肢に「つくる」を意識することだけ。ここまで8回分もお付き合い下さったあなたなら、その選択肢が意外と簡単に出現することはもうご存じだと思います。願わくばその選択肢を選ぶときの、重さも軽さもワクワク感も、いっしょに味わってもらえていたら幸いです。

連載第1回冒頭のごあいさつでも申し上げましたが、改めて。あわよくばあなたの創作のヒントや励みになったらとても嬉しいです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

あなたの創作がもっともっと楽しいものになりますように!

執筆:大向しんじ
(c)Rrose Sélavy

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